微生物応用技術研究所研究報告集 第13巻 平成21年度 p.7-31
Copyright c 財団法人微生物応用技術研究所


特別報告


1.自然農法から医学を考える

― 農医連携の哲学を探る ―

杉岡良彦(旭川医科大学医学部医学科健康科学講座)

我々の常識に反し、「自然農法」は農薬も化学肥料も使用せず農業を営む独自の方法を確立してきた。自然農法(稲作)は慣行農業の8割の収穫量とのデータがあるが、我々の常識とこうしたデータが乖離する主な理由は、自然農法が放任主義であるとの誤解に基づく。一方、自然農法が科学としての農学と対立するとの考えは、農学を単なる応用科学であるとみなし、農学における圃場試験の意義を忘却しているからである。自然農法から示唆される医学は、「①多元的・生態学的医学モデル、②自然治癒力の尊重、③薬剤に頼り過ぎないこと」を特徴とするものである。農薬や化学肥料を使用しない農業を推進してきたのは安全・安心な農産物を求める消費者と生産者であった。同様に、自然農法が示す医学を形成していくのは患者であり医療者である。来るべき農業と医療の姿を求め、消費者/患者と生産者/医療者の合意形成が不可欠である。そのために必要とされているのは、農業と医療を共に考える農医連携の哲学であろう。

キーワード:自然農法、自然治癒力、生産者と消費者、農医連携の哲学