微生物応用技術研究所研究報告集 第5巻 平成13年度 p.33-54
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研究紹介
3.栽培管理の異なるジャガイモ,及びニンジンの根部に生息する微生物相の特徴
田渕浩康・内藤智子・小杉明子・中川祥治・仁王以智夫(微生物応用技術研究所)
農法や施肥管理の異なるジャガイモとニンジンについて,根部を中心とした微生物相の比較検討を行った。前者は生産現場の作物とその土壌を,後者は試験圃場から得られた作物と土壌を使用し、種々の要因が組み合わさった環境下での作物の根圏微生物相と、肥料の種類のみが異なる環境下での作物の根圏微生物相の違いについて論じた。
1.化学肥料や農薬を使用せず、堆肥や有機質肥料のみで栽培管理を行う自然農法圃場(N区)と、従来の栽培管理を行う慣行農法圃場(C区)の互いに隣接した二つの生産現場圃場(ともに静岡県三島市)から供試根や非根圏土壌を採取し、これら二つの異なった農法で栽培されたジャガイモの根部と非根圏細菌相、および根部糸状菌相について調べた。一般細菌密度と放線菌密度は、両区間において明瞭な差異は認められなかったが、蛍光性Pseudomonas密度は根部および非根圏土壌においてともにN区で多く、特にジャガイモ収穫期以降で顕著であった。根部より単離した好気性一般細菌をMIS(Microbial Identification System、 MIDI Inc.)により同定または類別した。両区のジャガイモ根部には同一種の細菌が優占していた。また、細菌群の多様性についてはN区で高い傾向がみられた。根連続洗浄法により根部糸状菌相を比較したところ、N区でFusarium sp.1が、C区ではTrichoderma sp.1が優占しており、糸状菌の多様性は根部細菌相と同様にN区で高かった。単離した好気性一般細菌株の植物病原菌Rhizoctonia solaniに対する抗菌活性試験ではC区に比べN区で高い活性を示す菌株が多くみられた。また単離細菌株を用いたコマツナ種子への接種試験では、自然農法産ジャガイモ根由来の細菌株は、慣行農法産ジャガイモ根由来の細菌株に比べ、コマツナ幼植物の胚軸長、根長、そして側根数を有意に生育促進、あるいは発根促進する菌株が多かった。
2.化学肥料と有機質肥料で栽培されたニンジン根部の細菌相について比較した。つまり、高度化成肥料区、緩効性化成肥料区、有機質肥料区、アルファルファによる緑肥区、そして無施用区を設け、ニンジン根部の細菌相について調べたところ、一般細菌密度と蛍光性Pseudomonas密度ともに、処理区間で明瞭な違いがみられなかった。
2つの実験で異なる結果が得られたのは、対象圃場の土壌の化学性がそれぞれ異なる点、対象作物が異なる点、あるいは肥料の種類以外の要因が影響している点などが原因と考えられた。
キーワード:根部微生物相、自然農法、MIS微生物同定システム、微生物多様性、抗菌活性、ジャガイモ、ニンジン、蛍光性Pseudomonas