微生物応用技術研究所研究報告集 第4巻 平成12年度 p.15-28
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助成研究報告


2.安定同位体比分析法を用いた菌根共生系の窒素フローの定量的解析法の確立と野外での応用

徳地直子*1・高津文人*2・立石貴浩*1(*1京都大学大学院農学研究科・*2京都大学生態学研究センタ-)

外生菌根菌であるチチアワタケ(Suillus granulatus (L:Fr.) O. Kuntze)を外生菌根性の木本植物であるアカマツ(Pinus dernsiflora Sieb. et Zucc.)実生に接種することで、菌根共生システムを確立し、生育した感染アカマツの針葉、非感染吸収根、および菌糸マットの窒素安定同位体比(δ15N)を対照区と比較しながら測定した。菌根菌感染苗床3個および非感染(対照区)の苗床1個を作成し、各々の苗床に緩効性肥料を2回、1回当たり20gを施用し、20ヶ月間人工気象器内で生育させた。播種後13~19ヶ月の間に針葉、非感染吸収根およびS. granulatus菌糸マットを採取し、δ15Nを分析した。その結果、菌根感染区の針葉のδ15Nは、対照区のそれに比べて有意に低くなった。また、両者の非感染吸収根のδ15Nにも同様の傾向が認められた。外生菌根菌マットのδ15Nは、感染区の針葉および非感染吸収根のそれに比べて高くなった。菌根感染区の針葉の窒素含量は対照区のそれに比べて有意に低くなった。感染区の針葉のδ15Nが低くなったのは、菌根菌から宿主のアカマツに窒素化合物が移動するとき、同位体分別が起きたためと考えられる。野外での外生菌根性木本植物の葉のδ15Nも外生菌根菌子実体のそれより低い値をとることが共通して認められた。このように、菌根菌から宿主植物への窒素輸送に伴い大きな同位体分別が起きることから、宿主植物および外生菌根菌のδ15N値は、窒素動態における両者の共生関係の程度を示すパラメーターとして利用可能であることが示された。

キーワード:15N、 自然存在比、外生菌根、アカマツ、窒素移動、チチアワタケ